黒崎ゆういち「まちづくりレポートvol.15」

黒崎ゆういち「まちづくりレポートvol.15」
対談企画02 <web版>
隈研吾(建築家)×黒崎ゆういち
黒崎ゆういちを深く知っていただくためにスタートした対談企画。第二回目のゲストは、新・国立競技場や高輪ゲートウェイ駅のデザインを担当された建築家・隈研吾氏にご登場いただきます。港区のまちづくりにも深く関わる隈氏と、街の未来像を探ります。
撮影:加藤丈博
編集:actif赤池淳子
■「駅・街一体」を意識した高輪ゲートウェイ駅
黒崎議員(以下、黒崎):品川・田町駅間の再開発の先陣を切って、今年3月に「高輪ゲートウェイ駅」がオープンしました。周辺に住む住民の方々は、駅の誕生でより便利で住みやすい街になることを期待しています。隈先生は具体的には住民が「高輪ゲートウェイ駅」をどのように活用できるイメージで設計されたのでしょうか。
隈研吾氏(以下、隈):高輪ゲートウェイ駅は、JR東日本を含めた関係者全員で「駅・街一体」というテーマを共有して設計しました。これまでは駅を作ってから街を考えるのが一般的でしたが、高輪ゲートウェイは最初から「駅・街一体」を考えて、両者がシームレスにつながるものを作ろうと。今後モデルケースになるようなものになるのではないかという熱い思いを持って設計しました。街が完成すると駅前広場は駅の出口と同じ高さになり、品川駅とも700mの通路でつながる。市民の方々にとって駅とシームレスにつながる新しい広場がここに出現します。それが待ち遠しいですね。早く皆さんにそれを見ていただいて、楽しんでいただきたいです。
黒崎:昨今のまちづくりでは、エリアマネジメントと呼ばれる地域と企業が協働で街を活性化するしくみ作りが意識され始めています。隈先生が期待する、まちづくりに必要なソフト面にはどんな要素がありますか?
隈:今、ソフトの部分は大きく転換しています。ネット上の人間と人間の関わり方が大きく変化したことで、逆にリアルな世界で人間とつながりたいという気持ちが以前にも増して強くなっていると思います。コロナ禍が一段落したら、リアルな世界で人間と人間が直に顔を見て、つながれるイベントが都市計画の中のひとつの大きな目標になるのではないでしょうか。今までの都市計画というのは、お店が儲かれば良い、売上が上がれば良い、というものでしたが、これからの都市計画には人間と人間とのつながりが必要になる。いろいろな人たちがそのつながりに参加できるような、開かれた都市が求められる。それを作るのが都市計画の目標になって、ソフトがそれを可能にしてくれる時代が来ると僕は確信しています。港区は特に、古いものと新しいものの両方があり、いろいろな世代の方が住む「多様性の街」でもあると思います。それがうまくつながると、港区の魅力がよりいっそう上がるのではないかと思いますね。
黒崎:私が今、メインに活動しているエリアが、品川駅の海側に位置する港南や芝浦と呼ばれる地域です。私はこのエリアが、東京の湾岸エリア全体を引っ張るような場所になってほしいと思っているのですが、先生はこのエリアにどんなイメージをお持ちでしょうか。
隈:高輪ゲートウェイ駅周辺は、歴史的にも文化的にも意味ある場所ですが、ここしばらく大きな街と切り離されていた。この駅は、品川と高輪をつなぎ、海と陸をつなぐ。いろいろなものをつないでくれる存在だと思います。それによって、海側のエリアも大きく変化すると思いますね。例えば港南のエリアには隠れた宝がいろいろあります。まずは接水性です。海が見え、水と近いという点が大きな魅力で、それがまだあまり生かされていないように見えます。モダン一辺倒ではなく一部には昭和の雰囲気も残っていて面白いですね。それと同時に、街を現代的にするために使える、広い公共用地がまだ多く残っている。これらがうまく融合すると、ほかのエリアでは追いつけないような開発ができるのではないかと思いますね。
■新・国立競技場は市民スポーツの拠点としても花開いてほしい
黒崎:私が青山小学校に立ち上げた「みなとラグビースクール」は10年目を迎え、今も紫のジャージを着た子どもたちがラグビーに取り組んでいます。来年オリンピック・パラリンピックの開催を控える中で、国立競技場を起点としたまちづくりについて、先生のお考えや思いをお聞かせください。
隈:国立競技場を設計するにあたって、世界中のいろいろなスポーツ施設を調べましたが、ここまで都心に、しかも緑と一体になっている施設というのは世界に例がない。東京はすごい宝を持っているわけです。公園と緑、スポーツ施設が一体になっていて、しかも近くにはおしゃれな街が広がっている。この融合のすばらしさに、東京に住む人は意外に気が付いていない。これを良い形でこの地域全体の開発につなげていくと、スポーツ施設として世界でナンバーワンのものになっていくと思っています。
黒崎:昨年はラグビーワールドカップも大成功しました。感動の共有は、文化・スポーツ・芸術ならではの力。それをまちづくりに生かしたいと思っています。
隈:スポーツ施設には、これから二つの方向性があると思っています。ひとつは多くの人が集まる、エンターテイメントとしてのスポーツを観戦する場所。もうひとつは市民スポーツの拠点です。旧・国立競技場は、やはり1965年の東京オリンピックのために作られたもの。2020年の新・国立競技場は、その両方として機能する、エンターテイメントと市民参加、その両方が青山地区にどんどん花を開いてほしい。スポーツ施設にはそういうイメージを僕は抱いています。今後もその花を開かせることができる場所を皆さんと探していって、少しずつ、いろいろな場所でキレイな花を咲かせていけたらいいと思っています。
■Withコロナの時代は外部空間を生かしたまちづくりになる
黒崎:先生が考える都心におけるコロナとの付き合い方、Withコロナの時代のまちづくりではどんなところがポイントになるでしょうか。
隈:外部空間の使い方が非常に重要になってきます。これまでは、室内空間で仕事をして、外部空間はそのおまけという位置づけでしたが、これからは外部空間で仕事をすることもできる。都市の中でも、レストランが歩道を生かせるようになるなど、都市の風景も変わり始めています。そういった外部空間やセミ外部空間でいろんな活動が起こると思います。Withコロナ時代の内部と外部が連動する中で生活するライフスタイルに合うように、制度やビジネスの感覚を変えていく必要がある。制度のアップデートの方は、黒崎先生に期待しています。
黒崎:ご期待に応えられるようがんばります。現在、港区は人口が約26万人ですが、コロナ前の昼間人口は約100万人とほぼ4倍でした。品川駅港南口の通勤ラッシュの光景をニュース番組でよく使われていますが、今後港区のまちづくりでは、この昼間人口と夜間人口をどう融合させていくとパワーが出るとお考えでしょうか?
隈:4倍の人口格差をマイナスにとらえずに、ポテンシャルとしてうまく取り込んでいくことができると思います。昼でも夜でもない、いろんな時間帯で楽しい活動ができるような港区にしたら良い。20世紀は、朝9時から夕方5時まで働き、そのあと夜の街に出て行くという時間に均一化されていた生き方だった。でもこれからはいろんな仕事の仕方、いろいろな時間の使い方をする人が出てくるし、そういう人に対応できるようなポテンシャルを港区は持っていると思います。港区は衣・食・住のそれぞれ輝くものがある。それをうまく連動させるしかけが、これから必要になってくると思いますね。
■リ・デザインで人間にやさしく「心も体も健康になれる街」へ
黒崎:先生は東京大学で教育にも関わっておられますが、私自身も現在、明治大学公共政策大学院がバナンス研究科で学ぶ身です。先生がまちづくりを学ぶ学生に期待することがあればお聞かせいただけますか。
隈:私はWithコロナの時代、政治や経済のテーマが「新しい街の在り方」になってくると思っています。そのときに若い人の感性が重要になってくる。その感性で街を「リ・デザイン」する時代になってくると思います。この「リ・デザインを考えるときには、「人間の歩く視線で街を考えろ」と学生たちに口をすっぱくして言っています。そうすると、若者ならではの発想で街を見直せる。上からの目線で街を見るのではなく、歩く視点から街を見直せば、そこにヒントがあふれているはずです。
黒崎:リ・デザインというと、東京のインフラ面の老朽化も始まっています。行政も災害対策に向けて手は打っているのですが、見えないところのインフラで、先生が今後期待すること、課題等があればお聞かせいただけますか。
隈:例えば交通の在り方はこれから変わってきます。自動運転など新しい技術が入ってくると、歩道と車道の関係も今までの概念には関係なく変化する。歩行者の目でもう一度デザインすることができると思います。港区では、川も海も高速道路も、いろいろなものがあるものの、どうも人間から遠かった。人間を拒絶しているような構造だったので、新しいインフラは、「人にやさしい」という視点でのリ・デザインが必要になってくる。老朽化をリニューアルすると同時にそうしたリ・デザインしていただけると、私を含め市民にとってこんなにうれしいことはないですね。
黒崎:住居の面では、港区は9割が集合住宅に住んでいるマンション群の都市です。防災に対する不安も常にあります。先生が考える都心の防災モデルのあり方のモデルがあれば教えていただけますか。
隈:防災の発想でいつもの街をデザインするというのがこれからの防災デザインだと思っています。そうすれば、街が人間にストレスを与えない。リラックスできる街が作れると思います。先ほどスポーツ施設についても話しましたが、これからのまちづくりでは、心と体の健康がキーワードになってきます。港区には、心と体の健康を生むための道具はそろっていると思います。それらをうまく都市計画につなげられれば、おしゃれなだけでなく心も体も健康になれる街が実現すると思いますね。
黒崎:「心も体も健康になれる街」ですね。そこに向けて、私自身も政治家として活動していきたいと思います。
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