【エッセイ】前への歩き方。[その2歩]

第2回目のエッセイをアップします。この日には、どうしてもお伝えしたかった。とくに、いまの日本の状況を踏まえれば。
ご存じの通り、今日3月11日は9年前に東日本大震災が起きた日です。残念ながら政府主催の東日本大震災九周年追悼式の開催が見送られましたが、あらためて犠牲者の皆様やご遺族に心からご冥福をお祈り申し上げます。

震災からの復興が一歩ずつ進む中で、いま日本は再び新型コロナウィルスという大きな危機を迎えています。難しいのは、ウィルスという目に見えない敵との戦いだということです。3月9日には順延されていた国内最強リーグ「トップリーグ(TL)」の今月中の休止が決定。選手の薬物問題が理由でしたが、ウィルス問題も踏まえていることは否めません。小中学校も休校になったことで、多くの方々が感染問題を〝我が事〟として実感を持って受け止められるようになってきています。この状況を議員として、そして一市民として受け止める中で、私は9年前のことを思い出しています。

多くの方が地震や津波などで命を落とし、家や故郷を奪われた中で、岩手県釜石市からのニュースに釘付けになりました。地元のラグビークラブ「釜石シーウェイブズ(SW)」の選手たちが、震災の当日から市民の救援に集まり、復興にも力を貸している姿が映し出されていました。釜石SWというチームは、いまはクラブチーム化してトップリーグ(TL)昇格をめざしていますが、母体だった新日鉄釜石ラグビー部は1970-80年代に日本選手権7連覇を達成するなど国内最強を誇った名門チームです。

その釜石SWでは、日本人選手はもちろんですが所属する外国人選手も、母国からの帰国要請を断り、津波で壊滅的な被害を受けた第二の故郷に残り、救援活動を続けてくれたのです。日本でラグビーを始める子供たちは「One For All, All For One」という言葉を学びます。これは「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」と訳すのが適当でしょうか。ラグビーという競技には欠かせない精神です。その精神を、釜石SWの選手たちが自らの行動で証明してくれた。まだ日本中が不安や絶望に包まれる中でしたが、彼らの行動は、同じ楕円球を追う仲間を誇りに思えましたし、私自身も励まされたことは、いまも鮮明に覚えています。そして、私が高校日本代表に選出発表されたその日(1995年1月17日)に発生した阪神淡路大震災の際も、同様に神戸製鋼ラグビー部の選手達も行動を起こしていました。

いまウィルスという目に見えない敵と向き合う日々の中でも、ラグビーが、あの震災のときのように社会に貢献できないだろうかと思うのです。人と人との接触がしづらい難しい状況では、あらゆる活動が制約を強いられます。でも、体のふれあいができなくても、心のふれあいはできるはずです。
ウィルス感染という見えない恐怖は、すこしずつ私たちの心の中にも浸食してきています。先日も、電車の中でせき込んだ乗客を挟んで言い争う乗客の動画を目にしました。ウィルスも恐ろしいものですけれど、恐怖のために人間が持つべき寛容さや、お互いを尊重しあう心が蝕まれることのほうが、さらに恐ろしいことです。
そんな状況だからこそ「One For All, All For One」というラグビー精神が社会に役立つのではないか、いや、社会に役立てないと意味がないと思います。一見勇ましいラグビー選手も、試合前には恐怖という感情はあるんです。タックルが通じないんじゃないか、相手にふっ飛ばされるんじゃないか、スクラムで押されたらどうしよう、など。でも、その恐怖に打ち勝つ勇気を与えてくれるのは、仲間のために戦うという思いです。頼りになるヤツ、おちゃらけているヤツ、信用できないヤツ、などなど。そんな連中でも、毎日一緒に楕円球を追い、ともに泣き笑いする仲間だという意識、仲間を信じることをラグビー選手は自然に学び、受け入れるのです。

私が設立した「みなとラグビースクール」も、感染対策として3月は活動中止で休校になりました。でも休校になれば、会費は返還するか、委託しているプロコーチなどへの支払いはどうするかと、さまざまな問題に対処する必要があります。このような中止から波及する諸問題は、ラグビースクールだけではなく社会全般に当てはまるものです。給食用に準備して大量に余剰となった牛乳や食材などは、わかりやすい事例になるでしょう。
目にも見えない小さなウィルスのために、いま日本の経済、社会は急速に停滞しているのです。だからこそ、スポーツが果たせる、ラグビーが演じられる役割があるのではなでしょうか。
釜石でのラガー選手の姿から、私たちは学ぶものがあるはずです。そして、昨秋のラグビーワールドカップ(RWC)でも、災害にスポーツはどう向き合うかを考えさせられました。
大会期間中に大型の台風19号が日本を直撃したことで、大会組織委員会、試合会場のある自治体では試合を開催するか否かで大きな決断を迫られたのです。横浜国際総合競技場での試合は細心の注意が図られながら開催、東京や釜石では一部試合の中止(ノーゲーム)が決定したのですが、多くの被災者がでた台風の猛威を考えれば、開催の可否には適切な判断下されていたと思います。
その中で、試合中止が決まった釜石市では、対戦する予定だったカナダ・ナミビア両代表の選手・スタッフが、台風で被害を受けた家屋の修復などに進んで参加してくれたのです。選手たちは、一生に一度かも知れない晴れ舞台での試合ができないという苦渋の決断を強いられた。でも、その落胆の中でも、周りの苦しんでいる人、助けが必要な人たちのために、自分たちができることがあると考え、立ち上がってくれたのです。

いま、私はこう考えています。これを美談で終わらせてはいけない。
ラグビーは、周りにいる困った人たちに、手を差し伸べなくてはならないのです。試合中に倒れた選手が立ち上がるために、敵味方に関係なく手を差し伸べるように。
このままウィルスの感染が収束へ向かうことが望まれますが、厳しい状況が続くのであればラグビー界で真剣に考えるべきこと、やるべきことがあると思います。現状の「開催しない」ことも一つの決断でしょう。でも、私個人は、無観客でも試合開催の可能性はないだろうかと考えています。
いま休校で学校へ行けない子供たちに、たとえオンデマンドの中継であってもラグビーの試合を見て、楽しんでもらいたいからです。もちろん、テレワークや子供の世話のために在宅せざるを得ないご家族のためにも。社会が委縮していく中で、スポーツだからこそ出来ることがあります。

ファンのためばかりではありません。昨秋のRWCで我々を感動させた日本代表にとっても、ラグビー界が動き出すことは重要です。3年後の次回RWCへ向けた代表の強化というのは、実はもう始まっています。4年ごとに開催されるRWCは、前回大会と同じメンバーで戦うことはあり得ません。4年間という時間で〝新しい力〟を加えて、チーム=戦力に厚みを持たせることは鉄則です。つまり、現在代表に選ばれていない若い選手を鍛えなければいけない。そのためには、いま試合を行い、コーチ(監督)から評価を得て、7月、11月に行われる代表戦に選ばれることが重要なのです。そのためには、RWCベスト8入りを遂げた日本代表や、優勝した南アフリカ、ニュージーランドなどから世界トップレベルの選手が集まる今季のTLで経験を積み、進化することが不可欠です。

私の後輩たち、明治大学ラグビー部も3月3日に新主将を発表しました。東福岡高出身のLO箸本龍雅選手が、2020年シーズンのメイジを引っ張ります。いつもはおとなしい箸本選手ですが、試合ではひたむきに相手に体をぶつけ、ボールを持てば豪快に相手をなぎ倒して突進する、まさに明治大学ラグビー部の信条「前へ」をプレーで体現してくれる選手です。
「前へ」というのは、明大ラグビー部を70年近くにわたり率いた故北島忠治監督の言葉です。この言葉には、ラグビーで前進することだけではなく、人生でも困難に負けずに前へと進めというメッセージが込められていると感じています。
後輩たちだけではなくラグビー選手たちは、いまの苦しい状況だからこそ、グラウンド内外で「前へ」という気持ちを忘れないでほしいのです。ラグビーが、自分たちで「前へ」と一歩踏み出すことが、停滞する社会の背中を、すこしだけ後押しできれば。
私自身もいま「前へ」という言葉をあらためて噛みしめて、議員として、人として日々の取り組みにチャレンジしていきたいと思っています。

関連記事

ページ上部へ戻る